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私は妖の生贄?
この愛は神への冒涜なのだろうか―。 妖の餌「仙果」として生まれた美沙緒と天狗の匡。美沙緒を守り続ける為に天狗の当主になった匡と美沙緒の命がけの恋のお話です。 桜小路かのこ先生による、全18巻の「BLACK BIRD」。 十年ぶりに会った初恋の相手が天狗! しかも「喰われて死ぬか、俺に抱かれて嫁になるか、どっちがいい?」と突然、言われるヒロインの美沙緒。 ですが妖と人間の恋という単純な話だけでは無く、大切なものは何か?愛とは何か?生きる事とは何か?そんなことを考えさせてくれる、男女問わず読める漫画です。
美沙緒は100年に1人、人間界に生まれてくる仙果でした。妖がその血を飲めば寿命が延び、肉を喰らえば不老不死、花嫁に迎えれば一族に繁栄をもたらします。妖達は100年、仙果を自分の物にするために待っているのでした。
彼女にしてみれば、自分の意に反して生まれた瞬間から嬉しくないモテ期です。
仙果とは何なのでしょうか…?
答えは桃。日本や中国では古来より邪気を祓い不老長寿を与える神聖な果物と言われているとのこと。
3月3日の桃の節句も、健康を願った厄除で、桃太郎の童話は桃太郎が鬼である悪霊を退治するお話。西遊記の孫悟空にも桃が登場するエピソードがありますが、古来より生命や神聖な力の象徴とされていることがわかります。
桃の香りは男性に安心感を与えるそうです。その甘い香りに無数の妖が集まって来ていたのでしょう。
美沙緒の初恋の相手の匡は天狗です。当主となった彼には八大天狗と言う臣下達がそばにおり、八大達もヒロインを守ってくれます。お話の中では三つ子の太郎・次郎・三郎に相模・伯耆・豊前・前鬼ともう一人僧正の八人で八大!と呼ばれていました。
日本において天狗達は力が強大なことから信仰の対象にもされ、神に近い存在とされています。
本に桜小路先生が「天狗は青魚が嫌いという伝承があり吸血鬼で言うニンニクみたいなものかしら?」と書いています。妖も人間も苦手な物あり。そこは同じですね。
光と影のような正反対のふたり。
幼い頃から優秀で次期当主になることが定められていた兄「祥」は、残虐な一面を秘めていました。
動物虐待からはじまり、現代で言えばDVを行うようになって怖がられ愛されず、嫌われ、慕ってくれる者もいなくなります。
そんな性格では皆、逃げ出しますよね。自業自得ですが、寂しく愛情が欲しかっただけのように見えました。
次期当主というプレシャーと母親の歪んだ愛情が彼を孤独にし、本当の愛情とは何か分からず、愛情表現を苦手にさせてしまったのです。
弟「匡」は美沙緒を手に入れるためだけに次期当主に名乗りをあげ、周りから悪口を言われても怪我をさせられても、自分に力がないからだと言い、日々努力をしていました。
匡は小さい頃から祥に欠けていた、愛情豊かで優しい心を持っていたのです。だからこそ人を惹きつけ、慕われてきました。
次男だったから自分の欲求のためだけに努力できたのかな?とも思われる節もありますが、生まれ持った感情が善の方が大きく豊かだったのでしょう。
そんなお互い理解しあえない兄弟が、悲劇を生みます。
匡と祥は美沙緒の心の一欠片を賭けて、刃を交えます。それは、互いを強く意識してきた兄弟が、やっとお互いを認め合った瞬間でもありました。しかし祥は一度死に自分の意に反して反魂香(はんごんこう)により蘇らせられた身です。彼にはタイムリミットが迫っていました。
そんな中、またもや祥は想いを寄せられている妖の歪な愛によって術をかけられます。
兄は弟に「この命が尽きる瞬間、身体を木っ端微塵に切り裂け。いいな、ちゃんと殺せよ」と言い、術により暴走し始めます。そんな彼を美沙緒は両腕を広げて抱きしめます。匡は祥の言葉通りに彼の命を終わらせました。
祥は望み通り美沙緒の心の一欠片を匡から奪い、兄弟ゲンカは兄が勝ちを収めました。
美沙緒は匡との子を妊娠しました。
ある日、妖の鵺の残党が屋敷に押し入って仙果である美沙緒が懐妊していると知り、誰もが絶望する言葉を口にします。「仙果は子を産み落とした瞬間、死ぬんだ」と…。
匡にとっての正義や生きている意味、全てが美沙緒です。重い男ですね…。美沙緒を手に入れるために母親も失い、兄をも殺す。沢山の命を手に掛けてきました。なのに自分が美沙緒の命を奪うことになるかもしれないのです。
匡は相模に「美沙緒を死に追いやった我が子と世界を恨み憎んで朽ち果てるように自分も後を追う」と言うと、逆に相模は「子供が暴虐を覚えても止める人が居なければ皆(人間も)死に絶え世、界は終末を迎えるかも知れません。美沙緒が生きていた証も消えます。匡様は美沙緒を二度殺すのですか」と問うのでした。
生きていた証、それは兄の祥が美沙緒に自分のことを忘れないで欲しいと願ったこと。匡に祥の思いを奪う権利はありません。匡はこれは罰かと絶望し、崩れ落ちるのでした。
一方、美沙緒はお腹の子を愛することを忘れていたことに気づきます。16歳とはいえ母親ですね。仙果に特有の甘い香りが増し、常に匡から愛されることを求めています。
匡は捕食されるためだけに生まれてくる命は、この世にはない、仙果も妖の餌だけのために生まれてくるはずがない、と考えはじめます。確かに人間以外の地球上の生物は、環境に適応するよう姿形を変え、強い遺伝子を求め、子孫を残しますよね。
ふたりの子が無事に生まれました。
美沙緒は?
動きません。でも匡は諦めません。美沙緒に自分のエナジーを送り続けました。
命がけで美沙緒を手に入れた匡。
命がけで愛する妖の子供を生んだ美沙緒。
そんな彼らにも幸せが待っているはず。なぜなら幸福も不幸も嵩が決まっていて、形を変えてグルグル回って来るからです。
お互いひとりでは、もう生きてはいけないのです。ふたりでひとりなのですから。
妖と人間の命がけの愛は、節理に抗った神への冒涜でしょうか。いえ、そんなことはありません。
美紗緒と匡の物語は、相手が何者であれ、愛とは尊いものなのだと気づかせてくれる漫画です。
(ライター:シャア)