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もはや”篠原千絵”はひとつのジャンル
篠原千絵先生が好きです。とにかく好きです!これだけ長い間漫画を描いていて、よくこれだけ面白くなるなと感心する程、毎回ストーリー作りに長けた作者ですが、特に初期の作品はアイデアだらけで斬新すぎて、今読んでもたまらない面白さです。というわけで、今回ご紹介するのは、『海の闇、月の影/篠原千絵(全18巻)』です。
双子の姉妹である、小早川流水(るみ)と流風(るか)。一卵性双生児の二人は、周りが区別出来ないほど見た目もそっくりで、同じことを考え、同じことを思い、いつも一緒に過ごしていました。同じ高校に入学し、陸上部に所属して練習に励み、そして同じ男の子に恋をします。好きになったのは陸上部の先輩である、インターハイ優勝候補のスプリンター当麻克之。
この物語は、そんな克之の告白シーンから始まります。
彼の前にいるのは妹の流風。克之の告白を嬉しく思いながらも、同じく彼を思う姉の流水を気遣いYESと言えないで逃げ出した流風でしたが、姉の流水は想いを胸の奥に押し込めて「あんたになら譲るよ」と笑顔で背中を押します。双子が初めて違う道を進まなければならない出来事でした。
次の日、陸上部の女子部員は海沿いへハイキングに出かけますが、雨が降り出し、雨宿りをしようと横穴へ入ります。そこは集団墳墓と呼ばれる古墳で、崩れた壁の中には無数の骸骨と共に、古代の未知のウイルスが閉じ込められていました。
ウイルスに感染した部員達が次々と倒れて命を落としていき、双子もまた意識を失ってしまいます。三日後に流風が病院で目を覚ますと、流水は以前の優しい姿をなくし、別人のようになっていました。
克之の流風への告白によって最悪の心理状態でウイルスに感染したことで、流水は負の感情を増幅させられ残忍な性格になり、さらに物体をすり抜け、浮遊する能力を手に入れていたのです。
指先を人に突き刺し、傷跡を残さずに脳をつぶせる力。流水は克之を手に入れる為にその力を使い、流風を非常階段の5階から転落させ殺そうとします。しかし、この時に流風自身も気付いていなかったウイルスによる能力が発動。双子は同じ能力を持って戦うことになります。
やがて、流水には自分の血が体内に入った人間を二次感染させて自由に操る能力が、また流風の血には、それを阻止する抗体があることが分かります。均衡しているかのように見えた二人の能力でしたが、ジーン・アルバート・ジョンソンの出現によって流水は勢力を拡大し、ジーン自身も能力を身につけ、人々を支配していきます。
そして、彼はある薬を開発。双子の血を薬に混ぜて投与すると、相手の感染と抗体能力を塗り替えられるというものでした。
それぞれの想いで手を組みジーンを抹殺することにした双子でしたが、薬の処方箋は五つに裂かれ、鳩の通信筒に入れられてバラバラに飛び立ってしまいます。処方箋を集めようと全国を駆け回る中、どうやら全ての処方箋は、双子の能力を元にジーンが作り出した、新たな能力者達の手にあるようで…。
冒頭の告白シーンから、乙女チックなラブロマンスが始まるのかと思ってはいけません。覚えておかなければならないのは、作者が篠原千絵であるということです。素敵なキラキララブストーリー?ないない。絶対ないです。
最初の1巻は正直ホラーですよ。能力を持った流水が床や壁をすり抜け、何とかして流風を殺そうと幾重にも罠を仕掛けます。ガラスにうつったのは自分ではなく双子の姉で、突如すり抜けて首を絞めてくる。作品が年代物なこともあり、今よりずっと絵が怖いのです。
でもそれがいい。実は当時OVA化されている作品なのですが、セル画になると少女マンガ感が前面に出てきますので、全く同じ作品には見えません。ちなみに全3巻で終わっています。この壮大さの何処を切り取ったら3巻で終われるのだ…と興味が湧いたら探してみてください。今も正式なネット配信で観ることが出来ます。色んな意味でビックリしますよ。
この作品はアニメ化も実写化も、個人的には大反対。このイラストタッチだからこそ成り立っているのだと大声で叫びたいです。読めばきっと分かってもらえることでしょう。
物語は大きく分けると三部作という感じです。一部は双子の能力開花と姉妹ケンカ編。二部はジーン編。三部は処方箋編といったところでしょうか。
処方箋編は、やがて国を巻き込んで大きくなっていく物語のクライマックスを含みますし、五枚の処方箋の持ち主一人一人にドラマが確立されていて、読んでいて気持ちがいい程に面白いのですが、個人的におススメしたいのはジーン編です。
金髪長髪長身碧眼IQ270の超天才。このジーン・アルバート・ジョンソンという男の存在感は、本来ヒーローであるべき当麻克之など比にならない。双子と同じウイルスに感染しているにもかかわらず、月齢にも左右されない双子以上の能力を持つことになります。
謎に包まれたまま、あらゆる手を使って双子をどちらも欲しがるジーンの秘密が少しずつ露わになるにつれて、やっていることは残忍なはずなのに、なぜか悪役には見えない。キャラクターのバックボーンをしっかり作り込む作者らしい、悲壮感漂う愛すべき黒キャラなのです。
ジーンが討たれるシーンで涙が出る程、読み進めるにしたがって、読者は彼を愛していくことでしょう。
1987年から少女コミックで連載された作品で、順番で見ると『闇のパープル・アイ』の直後です。作者は『闇のパープル・アイ』『天は赤い河のほとり』で、第32回・第46回小学館漫画賞少女部門を受賞しています。勿論、どちらも最高に面白いのですが、この作品が無冠なのが30年経った今でも納得いかないのです。
『闇のパープル・アイ』は雛形あきこさん主演でドラマ化されて観ていたけど、上述したように紙面で出来上がり過ぎているからこそ、他の映像作品に派生出来ないのです(イラスト集などは発売されましたが)。そういった意味でも少し埋もれがちな作品かもしれません。
ジャンルで言えばサスペンスホラーアクションラブストーリー。ややこしいですが、他に形容の仕様がないのです。全てのジャンルがしっかり入っている。つまり『ジャンル=篠原千絵』です。あえて言うならラブストーリーが一番置いてけぼり。
もはやこの物語は、ヒロイン流風と当麻克之の恋ではなく、自分の内側に渦巻く愛憎に苦しむ流水の物語です。終盤で警察の取り調べを受けている最中に全身全霊をかけて流水が放った一言「多くを望んだわけじゃない。望んだものは一つだけよ!」この台詞が全てです。
知っている人は知っているというレベルの作品かもしれない。でも知ってしまったら、もう抜け出せない。そして、このとてつもなく甘くないラストシーンを、あなたは忘れないことでしょう。
※双子が登場する作品がもっと読みたい方はこちらもオススメ。