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よしながふみの隠れた名作
誰かを愛した先に訪れる別れは、どれだけの経験を経ても悲しいもの。 大人になるほどに多くの出会いを経験し、それに比例して別れの悲しみに触れる機会も増えていきます。つらい別れを繰り返すうちに、やがて愛することに臆病になってしまう人もいるのではないでしょうか。 「彼は花園で夢を見る」は、石造りの城に住まう男爵や砂漠からやってきた旅の楽師が登場する、おとぎ話のような物語。どこか寂しげな眼差しをした男爵と旅の楽師が出会い、様々な「愛」と「別れ」に向き合っていきます。
「大奥」「きのう何食べた?」のよしながふみが20年以上前に発表した「彼は花園で夢を見る」。彼女の作品と聞いて、BLをイメージする方も多いかもしれません。しかし本作はいわゆるBL的なストーリーではなく、中世ヨーロッパのような世界を舞台に描かれた「大人のおとぎ話」ともいうべき作品です。
はっきりとした国や時代の設定はなく、作中では十字軍の遠征を思わせる東方への遠征の描写がある程度。けれど幼いころに読み聞かされた絵本に出てくるようなその世界は、ある種の懐かしささえ感じさせます。
この物語の中で語られるテーマは「愛」。それは恋であったり、かけがえのない家族へ向けるものであったり。BLや男女逆転大奥など、様々な人間模様を描写してきたよしながふみだからこそ描けた、自分以外の他者をいとしく思う気持ちと、それに伴う別れの悲しみ。多くの出会いと別れを経験した大人にこそ読んでほしいストーリーです。
西の国と東の国との間にはかつて大きな戦争があり、その中で家族を失う者も多くいました。ファルハットは幼いころに母を失い、砂漠を一人彷徨っていたところを“お兄ちゃん”のサウドに拾われ、ともに楽師として旅をするようになります。
二人は美しい花園の中に佇むとある城に娘と暮らす男爵に出会い、そのまましばらく滞在することに。しかし滞在中に男爵の娘が実はサウドと血の繋がった実の娘だったことがわかり、その夜に二人はそっと城を出てしまいます。それまで家族として共に生きてきたファルハットと男爵を残して、二人きりで。
残された二人は、その悲しみを分かち合うようにその後の日々を共に過ごすようになります。
男爵は作中で二人の女性に出会い、恋をします。しかしいずれの女性とも死別し、悲しい別れを経験したことで男爵は愛することにひどく臆病になっていました。
「私は生涯で二度 本気の恋をした」
男爵のモノローグから始まる、彼の過去をつづったストーリーは、若かりし頃に一目で運命的な恋に落ちた幸せな日々、そしてそれを失い絶望の中で生きていたところに出会った新たな恋に触れています。
タイトルにもある花園は、男爵にとって二度目の恋の喜びやそれを失った悲しみを象徴する存在です。男爵のために種をまき、丁寧に手をかけて育てられた花園に咲き誇る花は、まるで最初からそこにあったかのようなさりげなさで男爵に寄り添います。
悲劇的な結末を迎えた男爵の生涯たった二度の恋。その恋は確かに男爵の日々を幸福で満たすものでしたが、同時にその後の彼の人生に「別れ」に対する臆病さを植え付けるきっかけともなってしまったのです。
ファルハットも男爵も、出会ったとき互いのそばにいたのはただ一人の家族。ファルハットは西の国との戦争の中で母を亡くし、男爵は生涯で愛した二人の女性を亡くしています。愛する人を失った直後に出会ったたった一人きりの家族を、二人は同時に失いました。
幾度目か別れの悲しみに沈む男爵は、あるとき旅の中で多くの別れを経験してきたファルハットに、「愛することが恐ろしくなるときはないか」と尋ねます。
それに対しファルハットは、「もう慣れた」と笑い、いまだ別れの悲しみに慣れることができず、まだ訪れるかもわからない別れの可能性すら恐れている男爵に、こう言葉をかけます。
「でもそんな男爵様が僕はいとしく思える」
異国から来た楽師のその言葉は、確かにその瞬間の男爵の心を救い、慰めたのでしょう。
この作品の特徴は、漫画でありながら、まるで外国のおとぎ話をつづった美しい絵本をめくっているような場面の構成です。
ほとんど絵だけで進むシーンもあり、セリフが少ないからこそ、より一層登場人物たちの表情がその心情を強く物語っています。ストーリーの中で特に印象的なシーンほどまったくセリフがなく、コマ送りのようにゆっくりと丁寧にその場面が描写されているため、そのシーンだけが物語の中で切り取られたように浮かび上がります。
本作は1991年に新書館より出版され、さらに2010年には白泉社から文庫版も出版されています。20年以上の時が過ぎてもなお色褪せることのないこの作品は、ジャンルにとらわれることなく、様々な形での人間の関わりを執筆してきたよしながふみだからこそ描くことのできた「愛」のおとぎ話です。
懐かしい絵本をめくるように、この物語の世界を訪れてみてはいかがでしょうか。